特撮とは全く関係のない、ギャグアニメに関する記事ですが、私自身が好きなのであえてコメントしたいと思います。
ギャグ漫画の神様 赤塚不二夫先生の代表作品といえば、私よりも後の世代では「天才バカボン」を挙げるでしょうけれど、私を含む団塊世代にとってはやはり「おそ松くん」ですね。私が幼少のとき、「少年サンデー」において「オバケのQ太郎」と並ぶギャグアニメとして連載されていました。私の家では週刊漫画雑誌はたまに買う程度でしたが、友達の家に行くと大抵「サンデー」「マガジン」「キング」のどれかがずらっと並んでいたし、特にサンデーの連載作品の中でも「オバQ」「おそ松」だけは今でも覚えています。
「おそ松くん」はやはり赤塚作品の原点だと言えるでしょう。後の「天才バカボン」の不条理ギャグ一辺倒の世界とは違い、ナンセンスではありながらもそれなりに現実の世界に即していた(古典落語やОヘンリーの短編小説が題材 というエピソードもしばしば有り)し、ギャグ漫画としてはまさに「何でもアリ」な内容でした。ドライで現実主義でガメツくてズルくてお調子者でそれでいて心優しい六つ子(特におそ松)のキャラも十分に感情移入出来るものでした。おそ松のキャラに自分自身を重ねていた当時の子供は、鉄腕アトムに自分を重ねていた子供よりもむしろ多かったと思います。
最初は四話(一か月分)で終わる筈がロングランに。内容としては、六つ子と両親(大きな鼻の下に螺旋ヒゲを生やした父さんと、華奢な体で一度に6人も産んだド近眼の母さん。二人並ぶと母さんの方が背が高く、まるでアトムの両親を思わせる。)の松野一家に、近所の魚屋(「もーれつア太郎」にも登場、その時の屋号が「魚〇」だった)の看板娘のトト子(作品のヒロインであり、六つ子たちのガールフレンド)を含むご近所ホームコメディで、そこにゲストキャラ(殆ど奇人変人)が加わって繰り広げられるドタバタコメディのスタイル。そして、数多い奇人変人ゲストキャラの中でも、今やファンなら十分に御存知の5大キャラ、チビ太 イヤミ デカパン ハタ坊 ダヨーン が特に傑出しており、中盤以降ではその役どころを変えて(スターシステム 手塚治虫先生の漫画でも、アセチレンランプ ハムエッグ メイスン 等がお馴染みで、ヒゲオヤジも「アトム」以外の作品でもたびたびその様な扱いで登場する。)殆ど毎回と言っても良いくらいに登場しています。
最初は名前さえ判らなかった脇役キャラ達ですが、中でもチビ太(オデンが大好物、赤塚先生の思い入れがあったのだろうか?)は後に他の雑誌に「チビ太くん」のタイトルでスピンオフで主演したくらいです。二度目のアニメ化の際に、声を当てた田中真弓さん(「ワンピース」のルフィの声)のべらんめえ調のしゃべり方がすっかりイメージとして定着し、最新の「おそ松さん」でもそのイメージがちゃんと踏襲されていたのはファンとしても嬉しい限りですね。
自称「おフランス」帰りのイヤミ(井矢見)は、作品中盤以降では六つ子を完全に食ってしまう程の、名前の通りに嫌味さ丸出しの強烈な、しかし何処か憎めないキャラ。後期になると、作品タイトルは「おそ松くん」でも、六つ子は全く登場せずに、イヤミが主演(殆ど損な役回りばかり)で内容も「バカボン」的な不条理ギャグ、といった回が多く見られました。そして、イヤミと言えば例の「シェー!」が余りにもお馴染みです。ン十年前に「シェーは古いよ。」なんて言われていたのに、今でも十分に通用する(「怪獣大戦争」のゴジラや「こち亀」は勿論の事。「美味しんぼ」の「山岡プロポーズ」のエピソードのある単行本の中にも山岡士郎の「シェー!」のポーズのシーンがあります。)ネタですね。後にも先にも、漫画やアニメから生まれた多くの流行語の中でも「シェー!」」以上に全国的に幅広く蔓延し流行したギャグが他にあったでしょうか?
他にも、発明家のデカパン。ドラえもんのポケットの様に何でも出てくる大きなパンツも彼の発明?と思いたくもなります。でも、パンツの中に収納した物が臭くならないのかな?「ちびまる子ちゃん」の山田君のキャラを思わせるハタ坊。人間離れした体の構造を持つとしか思えないダヨーン。と、六つ子の存在感を食ってしまうキャラ達。
そんな「おそ松くん」の世界の十年後を描いたのが、赤塚先生の生誕80年を記念して制作された深夜アニメ「おそ松さん」です。前作のアニメではすっかりイヤミとチビ太のキャラに食われ、すっかり影が薄くなっていた六つ子でしたが、再び原点に戻って、主役はやはりあくまでも六つ子。しかも、今まではまるで鋳型から抜いたようでそれぞれ見分けが付かないくらいだった6人が、今回はそれぞれの性格の違いは勿論の事、外見上もマニアなら一目見てきちんと区別が付くくらいに差別化(それぞれにスーパー戦隊の様なイメージカラーまである)されており、かつ、6人の兄弟としての序列もきちんと設定されています。それでいて6人全員何処か頼りなく、純真でジュブナイルな心のまま大人になった様な可愛さがあって憎めないキャラが、当時、おそ松に自分を重ねたかつての少年たちや、「そんな男の子って近所にいたよね!」という婦女子の心をつかんだのでしょう。ヒロインキャラであるトト子(キャラデザインが「ひみつのアッコちゃん」にまんま使われたことは余りにも有名、これもスピンオフ?)を、アイドル志望の、所謂「萌えキャラ」にした事も成功の要因だったのでしょう。(実家の魚屋は、プロボクサーの夢破れた兄貴が継いだと思われる。)あと、作品やキャラ全体の概要についてはネット検索で「ウィキ」を見た方が早いでしょう。
余談ながら、ギャグ漫画に子供として登場する登場人物が大人になった「その後」を描いた作品は、「おそ松」以外にも、劇画版「オバケのQ太郎」があります。オバケの寿命は人間よりはるかに長いこともあって、独身で未だに定職に就いていない(おそ松さん達六つ子も同様)オバQが、大人になって就職、結婚して家庭を持ったかつての友人達に会いに人間の世界に再びやって来て、子供時代の思い出話にふける、といった単発作品です。この作品はおそらく、劇場版アニメ「ドラえもん」で、しずかちゃんとの結婚を明日に控えたのび太のエピソードの下敷きにもなったのでは?と思います。
ついでの余談ながら、ちばてつや原作のアニメ「ハリスの旋風」の中で。「お前なんか、国松じゃなくてチョロ松だ!」とヤジられるシーンがありますが、当時そのシーンで腹を抱えて笑ってしまった子供はきっと多かったと思います。勿論、作り手の意図(本当は笑わせるつもりではなかった)とはまるで無関係に ですが。